近年、生成AI技術の発展に伴い、AIが利用者に代わって商品の検索・比較から注文・決済までを支援もしくは代行する「Agentic Commerce(エージェンティックコマース)」が注目を集めています。
本記事では、Agentic Commerceの基本的な仕組みや利用者・事業者それぞれのメリット、Agentic Commerceを支える仕組みや活用事例、導入に向けた課題、日本の法制度との関係についてわかりやすく解説します。
※本記事は、2026年8月時点の公開情報をもとに作成しています。
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目次
Agentic Commerce(エージェンティックコマース)とは?
Agentic Commerce(エージェンティックコマース)とは、AI(AIエージェント)が利用者の代わりに、商品の検索・選定比較・決済といった一連の購買行動を支援もしくは代行する新しいECの形態です。
これまでのECでは、利用者が自分で検索し、商品を比較して、カートに入れ、決済を行う必要がありました。
一方、Agentic Commerceでは「予算1万円以内で、来週届くビジネス用のリュックを探して」とAIに指示するだけで、AIが価格・在庫・配送日・返品条件を網羅して条件に合う商品を提示します。
さらに将来的には、利用者の承認のもとで注文から決済まで自動化される見込みです。単なる「商品案内」を超え、実際の購買プロセス全体をAIが支援・代行する点が従来のECと大きく異なります。
従来のECとAgentic Commerceの購買行動の違い
| 比較項目 | 従来のEC | Agentic Commerce |
|---|---|---|
| 購買の主体 | 利用者 | 利用者の指示を受けたAIエージェント |
| 商品の探し方 | 利用者がキーワードで検索する | 利用者が目的や条件を伝える |
| 比較・選定 | 利用者が自分で比較する | AIが条件に基づいて比較し、候補を提示する |
| 決済 | 利用者が自分で情報を入力する | 利用者の承認のもとでAIが実行する |
| 加盟店に求められること | 人が読みやすい商品ページ | AIが読み取れる商品・在庫・配送・返品データ |
このように、Agentic Commerceの普及に伴い、加盟店側にもAIを介した新たな購買行動への対応が求められるようになります。
Agentic Commerceにおける利用者・事業者のメリット
Agentic Commerceの普及によって、利用者の購買体験が変化するだけでなく、商品やサービスを提供する事業者にとっても、新たな販売機会につながることが期待されています。
ここでは、利用者側と事業者側に分けて、主なメリットを解説します。
利用者側のメリット
商品を探す・比較する手間を減らせる
希望する条件をAIに伝えることで、商品の検索や比較をAIに任せられ、商品選びの負担を軽減できます。
希望に合った商品を見つけやすくなる
予算や用途、配送日など複数の条件をもとに、AIから自分のニーズに合った商品の提案を受けられます。
購入手続きを効率化できる
商品選びから注文・決済までAIが支援もしくは代行することで、購入までに必要な操作や手続きを減らせる可能性があります。
事業者側のメリット
新たな販売機会を獲得できる
検索エンジンやECサイト内検索に加えて、AIが利用者と商品をつなぐ新たな接点となる可能性があります。
商品の特徴を適切な利用者に届けやすくなる
商品情報を適切に整備することで、価格や機能、配送条件などをもとに、利用者のニーズに合った商品としてAIから提案される可能性があります。
購入途中の離脱抑制が期待できる
AIが検索・比較から注文までを連続して支援もしくは代行することで、購入までの手間が減り、途中離脱の抑制につながることが期待されます。
一方で、Agentic Commerceへの対応には、商品データの整備やセキュリティ対策などの課題もあります。これらについては後ほど詳しく解説します。
Agentic Commerceを支える主な仕組み
Agentic Commerceを実現するため、AI事業者やプラットフォーム、決済機関などが、それぞれの役割に応じた仕組みを提供しています。
ここでは、AI事業者・プラットフォームが提供するものと、決済機関が提供するものに分けて、代表的な仕組みを紹介します。
AI事業者・プラットフォームが提供するもの
AI事業者やプラットフォームでは、AIエージェントと加盟店のシステムを連携し、商品情報の取得から注文・購入までを行うための共通仕様(プロトコル)の整備が進められています。
主な例として、以下のようなものがあります。
Universal Commerce Protocol(UCP)
UCPは、AIが商品情報、価格、在庫、バリエーション、カート情報などを取得し、購入手続きを進めるための共通仕様です。Googleは、AI ModeやGeminiなどでの利用を想定し、加盟店の導入を進めています。GoogleによるUCPの説明
Agentic Commerce Protocol(ACP)
ACPは、AIサービス上で商品を探し、利用者が注文内容を確認して購入するための仕組みです。OpenAIは、Stripeと共同で標準プロトコルを整備しています。OpenAIによるAgentic Commerce Protocolの説明
こうしたプロトコルを通じてAIと加盟店のシステムを連携するためには、事業者側で商品情報や在庫情報、配送条件、返品条件などを正確に取得・利用できる環境を整えることが重要になります。
決済機関が提供するもの
VisaやMastercardなどの決済機関では、AIエージェントを介した取引を安全に行うため、トークン化や認証、利用制御、不正利用対策などの仕組みの整備が進められています。
主な例として、以下のようなものがあります。
Visa Intelligent Commerce(VIC)
AIエージェントによる決済に、トークン化や認証、利用制御を組み合わせる仕組みです。Visa Intelligent Commerce
Mastercard Agent Pay
AIエージェントの登録・認証や、Agentic Tokenを用いた決済を想定しています。Mastercard Agent Pay
American Express Agentic Commerce Experiences
AIエージェントを介した商品検索、カート作成、決済などを想定した、加盟店・開発者向けの取り組みです。American Express Agentic Commerce
PayPal Agent Ready
Braintree加盟店が、AIサービス経由の注文や決済を受け付けるための仕組みです。PayPal Agent Ready
決済機関の役割は、AIにカード情報を直接渡すことなく、トークンを介して処理・活用し、利用者が許可した範囲や金額、加盟店などを確認しながら決済できるようにして安全性を担保することです。
Agentic Commerceの活用事例
海外では、AIによる商品の検索・比較にとどまらず、購入手続きまで一連の購買体験を支援・代行するサービスが登場しています。
ここでは、2026年8月時点で提供されているAgentic Commerceの事例をご紹介します。
Amazon「Alexa for Shopping」「Buy for Me」
Amazonでは、AIショッピングアシスタント「Alexa for Shopping」を米国で提供しています。利用者の希望に応じた商品の検索や比較、カートへの追加、定期的な商品の購入など、幅広い購買行動をAIが支援します。
さらに「Buy for Me」では、Amazonで販売されていない一部の商品について、利用者が注文内容を確認したうえで、AIが外部のブランドサイト上で購入手続きを代行します。
このように、商品の検索・比較だけでなく、AIが利用者に代わって実際の購入手続きまで行うサービスも登場しています。
AmazonによるAlexa for Shoppingの説明
Perplexity「Instant Buy」
AI検索サービスのPerplexityでは、米国の利用者向けに「Instant Buy」を提供しています。
利用者が自然言語で商品を検索すると、Perplexityが条件に合った商品を提示し、対象商品については加盟店サイトへ移動することなく、Perplexity上で購入手続きを行うことができます。
「Instant Buy」で購入すると、注文・決済情報が加盟店へ送信され、加盟店が注文処理や商品の配送を行います。
このように、AIサービス上で商品の検索・比較から購入までを一連の流れで行えるサービスも登場しています。
PerplexityによるInstant Buyの説明
AmazonやPerplexityのように、海外ではAIが商品を探すだけでなく、購入手続きまで関与するサービスの実用化が進んでいます。一方で、AIが担う範囲や購入の仕組みはサービスによって異なり、今後もさまざまな形でAgentic Commerceの活用が広がっていくと考えられます。
Agentic Commerceの主な課題
Agentic Commerceの普及に向けては、AIによる利用者意図の理解やセキュリティ、商品データの連携など、さまざまな課題があります。ここでは、主な課題を4つ紹介します。
AIによる利用者意図の正確な理解
利用者の指示をAIが誤って解釈すると、意図しない商品や数量、価格帯の商品を選ぶ可能性があります。
「安いもの」という指示でも、利用者が求めているのが最低価格なのか、コストパフォーマンスなのかによって、選ぶ商品は異なります。
不正利用を防ぐセキュリティ対策
AIエージェントが不正利用された場合、意図しない注文や決済が行われる可能性があります。そのため、AIエージェントの認証、利用者の承認、決済金額や利用回数の上限、加盟店や商品カテゴリの制限、トークンによるカード情報の保護、注文や承認履歴の保存などが重要になります。
加盟店側の正確な商品データ連携
AIが商品を選ぶためには、商品名や価格だけでなく、在庫、サイズ、配送日、送料、返品条件などの情報が必要です。
情報が古かったり、AIが読み取れない形式だったりすると、誤った商品説明や価格が表示される可能性があります。
返品・キャンセル・問い合わせ対応体制
AIが注文した場合でも、利用者から見れば加盟店との取引です。
返品・キャンセルの受付窓口、AIによる注文の確認方法、誤注文時の対応、返金の方法と時期、加盟店・AI事業者・決済事業者の役割分担を、あらかじめ整理しておく必要があります。
日本における法制度・規制の現状と事業者の対応
日本では、現時点ではAgentic Commerce専用の制度や統一的な実務ルールはまだ確立されておらず、検討段階にあります。
現在は、「特定商取引法」などの現行法を適用しながら、AIが利用者に代わって注文・決済する場合の意思確認、表示、責任分担などについて、国による検討が進められている段階です。
消費者庁では、デジタル取引や特定商取引法の在り方について検討会が開催されており、AIやチャットを利用した取引、広告・勧誘、消費者の意思形成などが論点となっています。デジタル取引・特定商取引法等検討会(消費者庁)
また、経済産業省は、AIエージェントを含むAI利用時の民事責任について、現行法をどのように解釈・適用するかを整理しています。AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き(経済産業省)
特定商取引法との関係
AIを介した取引であっても、加盟店が販売事業者であることに変わりはありません。
そのため、以下の特定商取引法に基づく表記や対応ルールは、引き続き遵守する必要があります。
- 販売事業者の名称・所在地・連絡先
- 商品の価格、送料、支払時期・方法
- 商品の引渡時期
- 返品・解約条件
- 定期購入の場合の契約期間や各回の金額
- 注文内容を確認・訂正できる仕組み
Agentic Commerceでは、これらの情報を人だけでなくAIも扱います。そのため、加盟店は、AIに提供する商品情報と実際の販売条件に食い違いが生じないように管理する必要があります。
また、AIが利用者の代わりに商品を選び、注文まで行う場合には、利用者が何を承認したのか、注文内容がどのように確定したのかを確認できる仕組みも重要になります。
特定商取引法に基づく表記の書き方については、以下の記事で詳しく説明しております。
特定商取引法に基づく表記とは?書き方や規制、罰則について解説
その他の法制度
取引の内容によっては、消費者契約法、割賦販売法、個人情報保護法、資金決済法・銀行法などの決済関連法令、景品表示法、不正アクセスやサイバーセキュリティに関するルールも関係します。
日本では、法制度が整うまでAgentic Commerceを待つというより、現行法を前提に、安全性や利用者保護を確保しながら、段階的にサービスを設計していくことが現実的です。
事業者が今から取り組める対応
Agentic Commerceに関する制度や実務ルールは今後も整備が進むと考えられますが、事業者が現時点から準備できることもあります。
具体的には、次の4つの観点から対応を進めることが考えられます。
- 商品データの整備
商品名・価格・在庫・配送日・送料・返品条件などを、AIが正確に読み取れる形式で提供できる状態にしておく。 - 情報更新の仕組み
在庫や価格などの変更を適切に反映し、AIに提供する情報と実際の販売条件に食い違いが生じないようにする。 - 決済とセキュリティ
トークンによるカード情報の保護、AIエージェントの認証、決済金額や利用回数の上限設定など、AIを介した決済に必要なセキュリティ対策を検討する。 - 運用ルールの整備
AIに任せる範囲や利用者による承認方法、注文・決済の記録、返品・返金対応、問い合わせ窓口などをあらかじめ整理する。
これらの対応を進めることで、今後Agentic Commerceが普及した際にも、AIを介した購買に対応しやすい環境を整えることにつながります。
まとめ:AI時代の決済動向・EC環境の変化に備えよう
Agentic Commerceは、従来の「利用者が探して買う」ECから「AIが最適な購買をサポートする」新たな形へと進化する、非常に可能性を秘めた技術です。本格的な実用化や法制度の確立には課題もありますが、海外での取り組みやプロトコルの動きからも、今後のEC市場に大きなインパクトを与えることは間違いありません。
SBペイメントサービスでは、最新の決済トレンドやテクノロジー動向を追うとともに、事業者のビジネス成長を支える決済ソリューションのご提供に努めています。ECサイト運営や決済導入におけるお悩み、今後の環境変化への対応について、ぜひお気軽にご相談ください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別のサービス設計や法令適用については、必要に応じて専門家への確認が必要です。
よくあるご質問
- Q.
- Agentic Commerce(エージェンティックコマース)と従来のECの違いは何ですか?
- A.
- 従来のECでは、利用者自身がECサイトにアクセスして商品検索・比較を行い、自分でカートに入れて決済手続きまで完了させる必要がありました。一方、Agentic CommerceではAI(AIエージェント)が利用者の要望に基づいて商品検索・条件比較・提案を行い、利用者の承認のもと注文や決済の手続きまでを代理で行う点が大きな違いです。
- Q.
- AIが利用者の代わりに決済を行う際、不正利用や誤注文などのセキュリティリスクはありませんか?
- A.
- 現時点では、AIエージェントの乗っ取りや不正利用、AIによる指示の誤解によって、利用者が意図しない注文や決済が行われてしまうリスクは存在します。そのため、AIが自動で注文や決済を行うにあたっては、不正利用や意図しない決済を防ぐためのセキュリティ対策が極めて重要です。決済業界ではカード番号を直接AIに渡さず「トークン」に変換して処理する仕組みや、決済金額・回数の上限設定、利用者本人による明示的な承認プロセスの挟み込みなど、高度な安全技術や認証基盤の整備が進められています。
- Q.
- 事業者がAgentic Commerceに対応するために、今から準備しておくべきことは何ですか?
- A.
- 主に以下の2点への対応・準備が必要となります。
1. 正確な商品・在庫データの連携整備: AIが正しく商品を読み取れるよう、商品名や価格だけでなく、リアルタイムな在庫状況、送料、配送目安、返品・解約条件などをデータ化して提供できる環境を整える必要があります。
2. 特定商取引法などの法規遵守と運用設計: AI経由の注文であっても販売責任は事業者にあります。特定商取引法に基づく表記の明確化、返品・キャンセル窓口の整備、注文履歴(ログ)の保存・確認の仕組みづくりが重要です。
その他のご不明点はFAQ よくあるご質問をご確認ください。



